税金滞納処分による給料差押範囲
民事執行とは別の基準を設けている
民事執行法による差押え可能範囲と国税徴収法による差押えの可能範囲はまったく違うものです。
給与(給料や賞与)は労働者の労働対価であり、生活上なくてはならないものであり、本来、最低限の生活は憲法でも保障されいる。 故に税金の滞納処分の差押えは「国税徴収法」という法律で、債務不履行などによる差押えは「民事執行法」や「民事保全法」で、差押えを受ける人の最低限の生活に配慮して、差押えをすることができない財産(差押禁止財産)について定められています。
この差押禁止財産の範囲は、民事執行では、『給料の差押えは禁止範囲が定められている。』で説明しているとおり、給料の4分の3は差押えが禁止されています。ただし、4分の3が月額33万円を超えるときは、33万円を超える部分は差押えることができることになっています。
ですから、本人にとっては、いくら給料が少なくても、4分の1は差押えされてしまうことになっているのです。
他方、税金の滞納処分の場合は国税徴収法で差押禁止財産が規定されています。給与額の何分の一という規定ではなく、
下記のとおりとなっています。
国税徴収法で定められている規定 法第76条1項
(差押禁止部分)
- @法第76条1項1号
- 源泉徴収の所得税(1,000円未満を切り上げ)
- A法第76条1項2号
- 特別徴収の住民税(1,000円未満を切り上げ)
- B法第76条1項3号
- 社会保険料等(1,000円未満を切り上げ)
雇用保険、厚生年金も含む - C法第76条1項4号「生活保障費」
- 滞納者を含む家族数に対する金額、
滞納者本人は100.000円
滞納者と生計を一にする配偶者と(事実上の配偶者含む)その他の親族数。金額は1人増えるごとに45,000円を加算の合計金額
生活保護法上の生活扶助に相当する金額 - D法第76条1項5号「対面維持費」
- 給料総支給額から上記@+A+B+Cを控除した額の100分の20の合計(1,000円未満を切り上げ)
【例1】
給料の総支給額:720.000円
源泉所得税:39.230円
特別徴収住民税:27.400円
社会保険料等:96.169円
扶養家族 妻、子供2人 計3人
差引手取額:557.201円
@法第76条1項1号の金額 40.000円
A法第76条1項2号の金額 28.000円
B法第76条1項3号の金額 97.000円
C法第76条1項4号の金額 235.000円
100,000円(滞納者本人)
+45,000円×3(扶養親族数)
D法第76条1項5号の金額 64.000円
{720,000円−(@+A+B+C)}×0.2
=64.000円
差押可能額 256.000円
720,000円−(@+A+B+C+D)=256.000円
差押後手取額
557.201円−256.000円=301.201円
【例2】
給料の総支給額:177.000円
源泉所得税:1.240円
特別徴収住民税:8.830円
社会保険料等:22.970円
扶養家族 妻、計1人
差引手取額:144.960円
@法第76条1項1号の金額 2.000円
A法第76条1項2号の金額 9.000円
B法第76条1項3号の金額 23.000円
C法第76条1項4号の金額 145.000円
100,000円(滞納者本人)
+45,000円×1(扶養親族数)
D法第76条1項5号の金額 0円
{177,000円−(@+A+B+C)}×0.2
=▲400円
差押可能額 0円 差押不能
177,000円−(@+A+B+C+D)=▲2.000円
差押後手取額 144.960円
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給料が少ないと差押えはされない。
強制執行による給料差押えは、給与が少なくても四分の一は差押えされてしまうが、税金の滞納処分では、上記【例2】のような場合は差押えをされることはない。
しかし、税金は、自己破産手続きを行っても免責されないので注意が必要です。
なお、強制執行と滞納処分が競合する場合は「租税債権優先の原則」があり、税金が一般の債権より優先されることになっています。詳細については、「滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律」に定められています。
税金の差押えについて、事実上、差押解除は非常に困難であり、とてもハードルの高いものですが、明らかに違法な差押えや不当な差押えは取消されるべきであります。希ではありますが、状況によっては解除が可能な事もあります。
なお、納税は国民の義務であります。可能な限り誠意を持って納税に努める事が原則です。まったく納税意思のない方や誠意を以て対応できない方の相談はお受けしかねます。
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